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オペラ『イヌの仇討 あるいは吉良の決断』稽古場日誌(9月9日):沢井栄次

おひさしぶりです。
8月まで別のプロデュースのオペラに出ていました”まろりん”こと、あなたのブリリアン・ヴォーチェの沢井でございます。

いろいろ別件で動いておりまして、とうとう稽古場の最終日の通し稽古にようやく同席させて頂きました。
この尋常ならない夏の暑さを経ての吉良邸の皆さんはいかに…。



吉良邸の中の様子を板壁の穴の隙間からそっと眺めているような感覚に襲われながら小学生の頃を思い出した次第。
むかし、小学校1,2年生の担任の女性の先生はこう言いました。

『ひとの はなしを きくときは そのひとの めをみて ききましょう』
『たにんの きもちなって かんがえてみましょう』

当時の教室には「今月のめあて」とか言って誰が決めたか黒板の上に堂々と標語が貼られていた。
毎月3つずついろんな標語があったけど上記のこのふたつだけは妙に心に止まり以後実践に至る。


授業の時は先生の目を見て話を聞いていた。別にものすごく集中して聴いているわけでもないし、先生の目を見ながら別のことを考えているのだけれども、すこぶる先生からの評判は良かったようなので、「これは使えるな」と悪知恵をゲットしたなと。

そして他人の気持ちになって考えるということ。
自分の中でこうであろう、こうに違いないと思った時には同時に「いや、その真反対の考えとはどうであろう?」と一瞬頭によぎるクセがついた。それは話し合いではもちろん、ギャグを考える時にも有効で「これの反対ってオモシロくね?」となる。不条理。

ずいぶん話が脱線してしまったけれども、このオペラを観ているとふとそんな事がよぎった。

吉良邸の中では身を潜めて吉良上野介やその家臣たちの思いや考えが吐露される。
歌舞伎から派生した年末スペシャル時代劇の忠臣蔵にどっぷり浸かった我々現代人は

「吉良=悪いひと」
「浅野内匠頭はじめ大石内蔵助=いい人」

と簡単に考える。

悪い人には悪い人なりの理論があり、道理があり、考えがある。その声を貴方は一度でも聞いたのか?誰か(マスメディア)の言っていたことを鵜呑みにしているだけではないのか?
弱者の声を聞いたか?

情報溢れる時代で中立に物事を考えることの難しさ。
とかくSNSを中心に一度悪者のレッテルを貼られると簡単に悪者を皆で血祭りに上げる風潮をいぶかしくおもう。
そんな簡単に白黒2色で言えるほど人間関係は単純ではなかろう。
お互いの言い分を聞いていたら判断に迷う。
だから一定の物差しとして法律がある。

そんなことがよぎりながら眼前では憔悴しきった吉良殿が幕府や世間の心中を探る。これはオペラというよりはドキュメンタリー。

ぜひ劇場であなたも板壁の穴から覗き見る体験をして頂きたい。
ゾンビ映画の種明かしを見るかのような衝撃が待ってるかもしれない。

話が長くなったけれども、終わっていつものように皆でバラしてトラックに荷積み。明日の朝出発となった。
すべて終わってやれやれで全国から届いた秋の味覚ブドウを頂くメンバー。いつもありがとうございます。


明日からは劇場入りだ!



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