ピノッキオの現場より・ベトナム編 萩京子

5月20日(日)

晴れました!
ホテルを出る前に、5月18日と19日の分の座日記を書いて送信する。

ベトナムでは、「ピノッキオ」はロシア経由で入って来て、名前が「ブラッティノ」として広まっている。
だから、「ピ・ノ・キ・オ!」の歌を「ブ・ラ・ティ・ノ!」と歌ったほうがいいか?などと言っていたのだが、その必要はなさそうだ。このオペラ『ピノッキオ』は、あの「ブラッティノ」の物語だ、ということが、
ちゃんと伝わっているようだ。

10時にホテルを出て、ハノイ・オペラハウスへ。
ピアノが動かされた形跡あり。
位置が変わってしまっている。
オペラハウスのスタッフはおらず、薄暗いなか、ウォーミングアップやら指ならしなどする。
実は今回はオペラハウスのスタッフはいっさい関わっておらず、ベトナム・オペラバレエ・シアター
というところの関係で、照明機材を借りたり、スタッフの協力を得たりしている。
昨日は「夜9時からのテレビが見たい!」などとおっしゃる。
そして、今日もなかなか現れない。
11時半から舞台のセッティングをしたいのだが、その段階でも来ていないので、
連絡をとってもらったら、今向かっているという。
まったく!そば屋の出前?

さて、本番直前まで、通訳のマイさんとフンさんにセリフのチェックをしてもらい、
14時からいよいよベトナム公演一回め。
開演10分前、5分前、1分前に鐘の音が鳴る。
オペラ『ピノッキオ』。ベトナムでの反応は?
ベトナム語は伝わるのか?
子供たちのざわめきと反応は、日本で公演しているような感じである。
マレーシアやインドネシアのようには、どっと来ないのは、ことばが伝わらないからか・・・。
どのように受け入れてもらえたのか、と、少し心配だったのだが、終わったとたん、
ものすごい拍手と歓声。
ベトナムでは終演後、人々はすごく早く帰ってしまうそうなのだが、拍手も長かったし、私たちがロビーに送り出しに出て行くと、握手とサインと写真のリクエスト責めにあった。
ベトナムでは、狂言の公演があっただけで、日本の演劇は公演していないということだから、
私たちはフロンティアになることができた。

夜公演は20時開演だから時間があいている。
街に繰り出すと興奮してしまい、エネルギーを消耗してしまうので、かなり自粛する。
ベトナム語のチェックがさらに続く。
そして、記念写真を撮ってから、ご飯を食べに出かける。
フォー24という店へ。
鶏肉入りとか、牛肉入りとか、具を選べるのだが、全員「全部入り」というのを注文した。
ガツ(胃)なんかも入っている。
たいへんおいしくて、終演後また来たいね、などと騒ぎながら、劇場に戻る。
夜の公演は10分遅れて20時10分開演。
始まったとたん、昼とは全然違う反応。
「いいこにしていれば、きっといつか人間の子どもになれる」という歌詞を、間奏曲(?)にのせて、
通訳役のさとみがベトナム語で言うと、拍手が沸き起こった。
ピアノを弾きながら、顔がにっこりしてしまう。
さとみもうれしかったに違いない。
さとみだけでなく、他のメンバーもみんな。
それから、舞台にどんどん活気が出て、客席の反応もあたたかくノリも良く、ベトナム語のセリフも、
大いに受けた。
笑いもたくさん。
芝居のリズムもよくなってきている。
このハノイ公演がアジアツアーの折り返し地点だ。
終わってからの拍手と声援は、とてもうれしかった。
大使館のスタッフの皆さんはリハーサルからずっと見ていてくださって、ベトナム語がどんどん上手になっていって、よく伝わるようになった、と言ってくださった。
そして「とてもすばらしい公演でした」と言っていただき、ほんとうにうれしい。
役者4人は、ベトナム語、よくがんばりました!

バラシ中の恒例の衣裳の洗濯は、今回特別参加の彦ちゃんこと、座員の彦坂仁美宿泊の、
ホテル・ヒルトン・オペラハウス(オペラハウスのすぐとなり)の彦ちゃんのお部屋で行われた!
ヒルトンさまさま!いえいえ、彦ちゃんさまさまです!
まず楽屋で乾杯!
ホテルに戻ったのは23時半ころか。
基金の榛澤さん、大使館の古館さん、藤田さんも参加して、101号室にて飲み会。
あまりに興奮して皆大きな声でしゃべり笑ったりしたので、
「静かにしてください」と、ホテルから注意を受けた。
日本国内のツアーでは時々やらかしているのだが、大使館の方々とご一緒の時だけに、
おかしかった。
その後は、ひっそりと静かに楽しく飲んだ。

5月21日(月)

公演もなく、移動もなく、リハーサルもない一日。
自由行動は15時まで。

ホテルは旧市街のど真ん中にある。
ホテルを一歩出ると、道ばたでくだものや野菜や肉までも売っている。
道ばたで、人々がお茶を飲んでくつろいでいたり、しゃべっていたり、食事風景もよく見かける。
おいしそうなのだ、これが!
天秤棒を担いだ人が、物を売っている。
細かな通りが入り組んでいて、通りに名前はついているのだが、迷子になりそうだ。
ホテルの前はハンヴァイ通り。漢方薬の店が並んでいる。
草の根、木の皮の匂いに満ちている。
少し行って曲がるとおもちゃ屋通り。
さとみと一緒に、ドンスアン市場まで歩いて行く。
市場には、衣類、靴、布類などの店がぎっしりひしめきあっている。
市場で働いている人たちの様子を見ているだけで楽しい。
お昼どきなので、ご飯を食べている人が多い。
商品の上で、平気で食べている。
食堂もあった。(平民食堂と呼ばれているそうだ。)
お皿にご飯を盛って、その上に好きなものをのせていく。
お総菜の種類は50種類以上だ。
旧市街を歩き回り、市場に行ったということだけで、充分充実した自由時間だった。

お昼はみんな(7人+彦坂)一緒に出かけた。
2カ所に分かれて食事。
私は、チャー・カー・ラ・ボンという雷魚料理の老舗へ入った。
フライにした雷魚をさらに油の中に香草と一緒に放り込んで、米の麺にかけて食べる。つけめん方式。
おいしかった!
役者4人は、お腹にやさしそうな、バケット&ショコラという店に。
役者諸氏は摂生しています!

その後、水上人形劇を見に行った。
水をはった四角いプール状の舞台。
下手に楽団席。
全体のストーリーはなく、17の場面。
人形を操る人たちは、下半身水に浸かっての重労働だ。
しかも一日4回公演。
終演後、すぐ次の準備をしている姿にシンパシーを感じる私たちだった。

さて、その後、ベトナム・オペラ&バレエ・シアターを訪問する。
ロシアバレエの伝統を受け継いだ50年近い歴史のある団。もちろん国立。
(国立でないカンパニーなどなく、そもそも集団は結成できないのだということだ。)
練習風景も見せてもらった。

さて、その次。
ベトナム・ミュージック・ダンス&ソング訪問。
こちらは、ベトナムの伝統的は音楽と踊りを世界に紹介していく、という目的をもった団体だという。
私たちのために、演奏と踊りを披露してくださった。

そして日も暮れ、いよいよ打ち上げ。
ベトナム料理。
めずらしい食べものとしてはタニシがあった。
最後に汁かけご飯。
大使館の方たちが言うには「ねこまんま」
これもたいへんおいしかった。

宴の途中で、彦ちゃんの出発の時間となる。
彼女は夜の便で日本へ帰る。
彦ちゃん、こんにゃく座観劇ベトナムツアー、楽しめましたか?
たくさん手伝ってくれて、ありがとう!

ホテルに戻った私たちは、榛澤さんと、大使館の下西さんも交えて、昨日と同じく101号室で、
またまた飲み会。
下西さんは世界70カ国を旅したという、とてもおもしろい方。
私たちも旅をして、たくさんの人と出会う。
「この世界には、いろんな人がいる」
ピノッキオ最後のことばは、私たち自身のことばだ。

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