『そしてみんなうそをついた』稽古場日誌 9月2日(高野うるお)

 ミスターエムは今年入座した新人歌役者。彼は朝、稽古場に現れると、なぜか私の鞄がおいてあるところにスッと弁当の入った手提げの紙袋を置き下の作業場へそそくさと下りて行った。一瞬「僕のために弁当を?」と思ったが、そうではないらしい。先日からずっと手こずっている小道具Uの製作を今日こそ終える!っと心に誓っていたからだ。お弁当を置く所の周りに誰の何が置いてあるかなぞは今の彼には眼中にないのだー、だいたいそこはいつも彼の弁当を置くスペースで、そこに鞄を置いてる方がハズレなのだー!だから これでいいのだー!
 はたして夕刻、小道具Uは完成した。『TUさん出来ました』「うおーすごいねー。動く動くー」。「すごいじゃん!かっこいいー」「ハハハ、おもしろーい」・・・・人々に感動を与えた小道具Uはそれを扱う歌役者TUに不慣れな扱いを受け、数時間後「エムくーん。グッてやったら。バキって壊れた」っとあっけなく壊されてしまった。
 ミスターエムのTUを見る目には何とも言いようのない輝きが宿っていた。

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