京子の旅日記(9月25日)

2009年9月25日(金)萩京子

ルーマニアで作ったドア枠のキャスターの具合が悪く、直してもらうことにしたが、作った工房の責任者はなんと東京に行っていた。
ブカレストのブランドラ劇場の東京公演が10月1日から紀伊国屋サザンシアターで行われるためだ。
そこで、国立劇場の大道具を作る工房がそちらの作業を中断して、こちらの直しをしてくれることになった。
だが、何時に仕上がるかがわからない。
今日は出演者の集合は12時で、昨日の続き。
15場、子守歌のシーンからラストまで。
私は、音楽演劇雑誌のインタビューを受ける。
インタビューアーは作曲家のミルチャーさん。
カフカのこと、現代音楽の問題、歌手の身体訓練のことなど、話題はひろがった。
東欧ではカフカに関心を持つ人が多い、とおっしゃっていた。

さて、全部のドア枠の直しが仕上がるのが18時くらいということになり、(なんと開演1時間前だ!)、ゲネプロはやらないことにする。
ひとつだけ仕上がっているドア枠を使って、部分的に音楽稽古をする。

18時にドア枠が揃ったところで、開場直前まで動きの稽古をして、いよいよ開場。
萩、土居、田上は、いったいお客は来てくれるのだろうか・・・、と激しい不安を抱えて、劇場のロビーや入り口付近をウロウロする。
ポツリポツリと人がやってくる。
10人、20人・・・とはじめのうちは数えていたが、ありがたいことにだんだんわからなくなってきた(笑)。

近年通常の録音された1ベルではなく、伝統的なドラを打ち鳴らし、開演の合図とする。
19時開演。
客席は集中している。
声と楽器のバランスも良く、響きも思いの外良い感じである。
言葉もクリアに聞こえる。字幕も快調。
ルーマニア語のセリフも通じている模様。反応がある。
K役の大石さん、途中から声が絶好調となり、今まで聞いたことがないほど豊かな声が出始める。
いったいどういうこと?
感動したのは、3場「フモレスケ」や4場「エレジー」などの場面が終わると拍手が起きたこと。
休憩時間、楽屋へ行き、すごくうまくいっている、とみんなを激励。
そして最終場面、「出発」。
合唱も演奏も高まって、ロスコーの煙も具合良く出てきて、「出発できていたら、出発できていたら、出発・・・」という字幕が煙に隠れていくのが、偶然とはいえ、すばらしい効果を生んだ。

終わるとお客様は次々と立ち上がって拍手してくれた。
スタンディングオーベーション。
4時間前にはドア枠が直っておらず、2時間前には客席がガラガラなのでは、と不安におののいていたのだ。
不安の地獄から喜びへ急カーブ。

出演者一同、ロビーでお客様の送り出し。
次々と「とてもすばらしかった!」と声をかけられる。
大石さんなどはルーマニア人の女の子から「これは私の大切なものです。」とペンダントをもらっていた。

ヨーロッパツアー初日は大成功。
だが感動にひたっている時間はなく、さっそく、ばらしとパッキングと積み込み。
このツアーは、チャーターバスのうしろにコンテナーを牽引して移動するのだが、どんなコンテナーが来るのか、それも本日の一大心配事項だった。
なんとか大きさ等クリア。
暑い日が続いていたが、積み込みのときは冷たい風が。
でも興奮している身体には気持ちよい。

積み込み終わったのが23時半ころ。
ホテルに戻り、初日の乾杯をしようということで、有志は街に繰り出し、24時閉店だという「ヴェルディー」という店にすでに24時だというのに強引に入って、飲んで食べてお祝いした。

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