京子の旅日記(10月11日)

2009年10月11日(日)萩京子

プラハ公演2日目。
『変身』ヨーロッパ公演の千秋楽。
このツアー唯一のマチネー公演だ。
12時から稽古なので、11時ごろ劇場に入ればよい。

午前中、プラハを歩く最後のチャンスなので、大石、成瀬、佐藤敏之、萩は、朝7時にホテルのロビーに集合して、お城の方へ行くことにした。
しかし私はトラムのチケットを持っていないので困ってしまった。
トラムは乗ってから現金で払うということができないのである。
チケットの販売機が道ばたにあるが、日曜だからなのか朝早いからなのかわからないが、反応しない。
いったいどうしたらいいのだ?
こうなったら無賃乗車するしかない!
(すみません!こんにゃく座代表はプラハで無賃乗車してしまいました。)
そして少し乗って、地下鉄のある駅で降りて、チケットを往復分2枚買いました!

日曜の朝、道行く人はほとんどいない。
とても静かだ。
カフカ記念館のあたりを通り抜け、プラハ城に向かって登っていく。
雨が少し降ったりやんだりしている。
お城の警備は左右にふたり。
びくとも動かない。
それから、聖ヴィート大聖堂に入った。
ミサが行われていた。
パイプオルガンの音も聞くことができた。
出ようと思ったら、雨がひどくなったので、しばし大聖堂のなかで雨宿りする。
雨がおさまってから、カフカの仕事場のある「黄金の小路」と呼ばれる一角に行く。
カフカの仕事場、22番地の青壁の家は外から見ることしかできなかったが、写真をパチパチ撮って喜ぶ。
急な坂を転がり落ちそうになりながら下り、トラムに乗ってホテルに戻る。

朝っぱらからたくさん歩いたのでお腹がすいた。
9時半過ぎに朝食。
そして11時すぎに劇場に入ってすぐ、お昼のお弁当を食べた!

12時に集合。
今日はバラシ、パッキング、積み込みがある。
しかも明日、荷物を飛行機に載せるため、すべてのトランクを20キロになるように詰めなくてはならない。
洗濯の段取り、それから打ち上げへの行き方など説明の後、合唱の部分を中心に30分くらい稽古する。
稽古が終って、記念撮影。

13時半開場、14時開演。
今日は満席。
最後のステージである。
皆、昨日よりリラックスして伸び伸びとやっている。
観客の反応はやはり暖かく、一幕の終わりの拍手もなかなか鳴り止まなかった。

休憩中ロビーに出るためには、劇場の仕組み上、観客は一端外に出て、そのまま中庭で過ごしてもいいし、ふたたび別の階段でカンティーンに降りて行ってもいい。
雨上がりの気持ちのよい中庭で過ごす人も多く、みなさん興奮気味におしゃべりしている。
中庭の周りの建物には、ごく普通の人々が暮らしている。
ほんとうに面白い空間である。
劇場のオーナーのトゥルバさんが「とてもすばらしい。ビデオをください!」と言う。

このツアーで5場「ロマンス」6場「デュエット」12場「ナハトムジーク」などがとてもよくなった。
全体の流れもすごくよくなり、よどんだところがなくなった。
このまま帰国公演をすれば、どんなにか良い公演になることか・・・、と思うが、残念ながらそれはかなわない。

終曲が終わり暗転になったとたん、大きな拍手。
カーテンコールで大石さんが「カフカの生まれ育ったこのプラハで公演ができて、幸せです。」とあいさつすると、再び大きな拍手をもらった。
カーテンコールは合計4回。
それでも拍手は鳴りやまない。
舞台で大石さんがまわりの人になにかささやいている。
楽士のところにも行ってなにか言っている。
アンコールで何か演奏するのだな。
何をやるのか?
と思っていたら「このプラハの街の歌を歌います。」と言った。
豊島理恵が「シャンソン」とタイトルを言い、序曲とも言うべき「シャンソン」を演奏。

「プラハ ニクラウス通り36番地
河が見える モルダウの流れ
川面をかすめて
カモメの群れが飛んでいる」

そうそう、モルダウ河ではほんとうにカモメが飛んでいました。

「シャンソン」はクラリネットとファゴットとピアノなので、ヴァイオリンはない。
ヴァイオリンの手島さんは歌っていた。
それを見て、私はすごく感動してしまった。

このヨーロッパツアーを計画してから1年半。
林光の『変身』。
山元清多の『変身』。
それをプラハで公演しなければ、という思いで進んできた。
残念ながら、お二人には立ち会ってもらうことができなかったが、ふたりの作者の思い、いやカフカを含めて三人の作者の思いを、舞台で表現することができたと思う。
プラハの観客にそれを受け止めてもらうことができた。
そんなことを思いながら、「シャンソン」を聞いた。

さて、恒例の送り出しの後、バラシ、パッキングである。
劇場の体重計を借りて、久ちゃんがトランクを持って計る。
その数字-久ちゃんの体重=トランクの重さである。
足したり引いたりして、ほぼ20キロのトランクが15個仕上がった。

劇場のスタッフからお礼のことばとプレゼントをもらった。
こちらがプレゼントしなければいけないところなのに!
ウィーンでも照明のスタッフがチョコレートなどをプレゼントしてくれた。
現地のスタッフと本番の成果をともに喜びあうことができて、ほんとうによかったと思う。

さていよいよ打ち上げ。
ビール工場のレストランへ、チャーターバスで出かける。
少し遅れて劇場のスタッフが3人駆けつけてくれた。
ウラジミールさんとペトロさんとシモンさん。
名前がすごい!
みんな良い顔している。
3人を見ていると映画のシーンのようだ。

それから、今回の字幕のためのチェコ語への翻訳をしてくださったトマーシュ・ユーコヴィチさんも来てくれた。
村上春樹の「ノルウェーの森」などのチェコ語訳をしている人だ。
ミーハーなことばかり書いて恐縮だが、トマーシュさんも若くてハンサムである。
背が190センチくらい。
さっそく横に張り付いて、カフカのチェコ語訳は何種類くらい出ているのか、とか、今回の翻訳は大変だったか、とかいろいろ聞いた。
村上春樹のことなども話した。
彼はオペラ『変身』の翻訳に携わることができたことを喜んでくれていた。
そして舞台についても「とてもすばらしかった」と言ってくれた。
良い出会いができたと思う。

さて、宴もたけなわ、私たちは貸し切りではなく、お店の一角に陣取っていたわけだが、お店の人がOKと言うので、歌いおさめをした。
そのためにわざわざ楽士の皆さまには楽器を持って来てもらっていたのだった。
『夢の番人』『十二月の歌』『雨の音楽』の3曲。
お店の人も、他のお客も乗って楽しんでくれていた。
みんなあったかい!
そして、手締め隊長川鍋節雄の音頭で三本締め。

バスでホテルに戻る。
打ち上げのとき、運転手のバリさんにCDをプレゼントした。
そうしたら、帰りのバスでもう「ぼくたちのオペラハウス」をかけて、喜んで聞いてくれている。
街頭演奏にも旗持ちでつきあってくれたし、仲間のような気持ちになっている。
明日お別れと思うとさびしくなってくる。

ホテルに戻ったら、各自自分の荷造り。
もう夜遊びする人もあまりいないようだった。

0 件のコメント: