ピノッキオの現場から:萩京子

5月15日(火)

携帯電話の目覚ましを朝7時にセットし、起き出してごそごそしていたら、同室の山崎亜季に「萩さん、超早いですね~」と言われ、時差を直し忘れていたことに気づく。
朝6時だったのである。
う~、眠い。
しかし、ここでまた寝てしまうと、起きそびれてしまうかもしれないと思い、がんばって正式に起きる。
8時半にホテルを出発。劇場入り。
午前中は照明づくり。
ピアノの到着を待つ。
ピアノを待つあいだに、客席の暗がりで、5月13日と、14日の座日記を書く。
TIMの大きい劇場(2001年に『ロボット』を公演した800人収容の方)から、ピアノは運ばれてくることになっている。
お昼まえに、ピアノがやってきた。
1962年製のスタインウエイ。
『ロボット』もこのピアノで演奏されたのだ。
運んできた調律師の人の顔にも見覚えがあった。

お昼はお弁当。ナシ・アヤム・ナントカ・・・、。
ご飯とチキンの味付けしたもの。

昼食後、13時から、ドンゴロスの位置決め。
伊藤多恵こだわりのミザンセーヌ。
私は昼食後、眠くて仕方がない。
眠りながらピアノを弾く。
6時半からゲネプロ。
なんとか身体を起こさなくては。
30円ぐらいのドリンク(どうも精力剤らしい・・・)を飲んだり、体操をしたり、身体と気持ちを持ち上げる。
報道関係者と児童劇団の人など80名くらいが客席にいる。
ゲネプロとは思えないほど、客席の反応がいい。
最後にピノッキオが袋に入って、手だけでごあいさつすると、客席から「バイバーイ!」の声。うれしくなってしまう。
終わって、役者は多恵さんからのダメ出したっぷり。
私は報道の取材を受ける。
一対一で話をするのかと思っていたら、20社以上で、パチパチ写真を撮られ、単独記者会見という感じになった。
「なぜ『ピノッキオ』を選んだのか」
「インドネシアの子供たちにどのようなメッセージを伝えたいか」
「なぜ日本の伝統的な音楽を使わないのか」
「いつも少ない人数で公演するのか。」
等々の質問を受ける。
前回のツアーの時にも感じたのだが、ジャーナリストの人たちがとても積極的である。

さて、ホテルに戻り、今日はお利口におとなしく過ごす。
(飲みに行かない、という意味である。)
お部屋にマッサージを呼ぶ。
ジャワ式マッサージとのこと。
すごい美人のお姉さんが来た。

5月16日(水)

昨日ゲネプロをすませていたので、午前中は少しゆっくりすごすことができた。
12時にホテルを出発。
劇場にはお弁当が来ていた。
ジャカルタでの食生活は、ホテルでの朝食と、あとは劇場ですべてお弁当。
交流基金の事務所の「お弁当大臣」と呼ばれるスタッフさんが、綿密にメニューを組み立ててくれていて、とてもおいしい。
ピアノの調律も終わっていた。
実は昨日のゲネは、ピアノを調律していない状態でやったのだった。
まあ、それくらいのことで神経質になっていては、アジアツアーはやれない。
ピアノがあるだけでありがたい。
そういう気持ち。

昨日の取材の成果があり、新聞に大きくピノッキオの舞台写真が載った。
オカハラが千手観音、あるいは阿修羅のように写っていて(さとーちゃんとさとみの手が重なって写っているのでした!)、ピノッキオくんも分身の術というか連続写真のように3人写っていたのがおかしかった。

15時から音楽稽古。
16時半から多恵さんによる抜き稽古。
クアラルンプールとうって変わって、床が滑る滑る・・・。
舞台も高いし、見え方が全然違うので、昨日もていねいにやったけれど、さらに細かくチェックする。
床が滑るということで言えば、ピアノを弾く際に、全然足がふんばれないのである。
仕方がないので、自動車の運転席の(?)シートを借りて、透明のテープで床に貼り付けてもらった。

開演は20時。
インドネシア公演はロビーに備え付けられているドラの音で開演を告げる。

ジャカルタ公演初日。
客席はすごくノリがよくて、反応がすごい。
よく笑ってくれて、手拍子も来た。
客席から手拍子が来ると、テンポが狂うので困ってしまうことが多いのだが、その手拍子も、遅れないのがすばらしい。
いろいろ細かいミスはあったが、客席には大受けで、役者+ピアニストは気をよくしていたが、終演後、多恵さんよりきびしいダメが出た。
細かいミスの積み重ねが、芝居全体のリズムを悪くしているということ。

『ピノッキオ』はとても緻密にできていて、音、ことば、動きそれぞれが、複雑に絡み合っている。
タイミングが0.1秒狂うだけで、かみ合わせが違ってしまうのである。
それはわかっていても、なかなか完璧にはできない。
稽古を重ねても、行く先々で言語が変わるので、リズムが狂う。
劇場のつくりも違う。
そういうたくさんの条件をさらりとクリアできないとダメなのだなあ・・・。

それでも、みんなご機嫌で、中国料理&ビールで初日乾杯。
明日は千秋楽!
多恵さんに見てもらえる最終日。
がんばりましょう!

5月17日(木)

あっという間に、ジャカルタ公演最終日。
11時半、ホテル出発。
劇場入り。
今日は暑い。
着いたらまずお弁当。
ジャカルタのおいしいお弁当もこれが最後。
全食おいしかった!
12時半から14時半くらいまで、稽古。
こだわりの多恵さんは、見え方をさらに直して行く。

ピアノ・・・1962年製のスタインウエイくんは、ぜいぜいあえいでいるが、あと一回がんばって、と祈るような気持ちです。

16時開演。
今日は学校がお休みの日ということで、客席は子供も多く、今日の回は早くに売り切れたとのこと。
2001年のロボット以来、3回めのこんにゃく座公演を楽しみに待っていてくださった方も多いと聞いて、ほんとうにうれしい。

だれないように、すべらないように、勢いでやらないように・・・。
とまあ、気をつけることはたくさんある。
昨日とは少し違う感じで、ていねいにやれたかな。
終わって、すごく暖かい熱烈な拍手。
ロビーに出て行くと、サインと写真責め。
ニコニコしすぎて、ほっぺたが下りなくなってしまった。
2003年の時にお世話になった通訳のリンダさんが3人の娘さんを連れて見に来てくれていた。
その他、『テト』を見ました、『ゴーシュ』を見ました・・・、と、たくさんの人に声をかけられた。
こんにゃく座ジャカルタ公演は着実に積み重なっていることを実感。
今回は2回とも満席。
よかった!
多恵さんからも、今日のが今まででいちばん良かったと言ってもらえた。
よかった!

さて、パッキング。
オカハラはホテルで洗濯。
(このパターンが定着)
19時くらいには終わり、ホテルに戻り、それから打ち上げへ。

明日はベトナムへ移動。
旅も中盤に差し掛かります。

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