ピノッキオ旅日記 in インド!(10月4日):萩京子

10月4日(木)

午前7時半、ホテルのロビーに集合。昨晩ホテルの一室に入れておいた『ピノッキオ』の舞台に必要な一切合切をミニバスに積み込んで、シュリラムセンターに向かう。
車窓から見るデリーの街の様子はたいへんおもしろい。街を歩く時間はほとんどないので、車窓からデリーの街を味わう。自転車に色鮮やかなたくさんのほうきを載せたほうき屋さんや、風船屋さんが走っていた。道ばたではチャイを売っている。太田まりが道ばたのチャイを飲みたいと言う。「やめた方がよい」という意見と、「沸かしているから大丈夫じゃないの」と言う意見がある。チャイ売りを見かけるたびに、「まり!チャイだよ!チャイ!」と言って笑い合う。



8時、劇場に到着。今日は午前と夜の2回公演。午前は7つの学校から子どもたちが見に来る。4年生ぐらいから中学生まで。いきなり学校公演である。基金の土井さんの作戦だ。客席に入ってくる子どもたちは目が大きくてキラキラしている。日本国内での学校公演と雰囲気は同じ。男の子がはしゃいで女の子に注意されたりしている。



10時半開演。岡原演じる大工の棟梁が「き、き、木が口をききおった」という部分をヒンディー語で「イエ ラクター ボルター ヘ」と言ったところで、客席は大喜び。苦労してヒンディー語と格闘して良かったね!子どもたちは英語の字幕を見たり見なかったり、好きなように見ている。まり演じる農夫の「番犬一丁できあがり!」も、ヒンディー語が大成功で大受け!最後にピノッキオが海を泳ぎ切るところは息をころして見てくれた。終わってロビーで子どもたちをお見送りする。「ありがとう」「さよなら」と日本語で声をかけてくれる子もいる。
インドでの『ピノッキオ』公演一回目が終わった。物語も音楽も歌役者のエネルギーもまっすぐに伝わった手応えがある。お昼を食べてから、菊地さんにヒンディー語のダメ出しをしてもらう。でももうあまり注意されない。菊地さんは歌役者諸氏のがんばりをほめてくれて、オペラ『ピノッキオ』そのものを楽しんでくださったようだ。夜の回には娘さんを連れてくるとおっしゃっていた。
夜の部までは時間があるので、ホテルに戻るグループと13日に再びデリーで別の劇場で公演するので、その劇場の下見に行くグループに分かれる。
私は舞台監督の森下さん、照明責任者の佐藤敏之、制作の土居麦、基金の土井さんと共に下見に参加する。行き先はナショナルドラマスクールの劇場。2001年のロボット公演の際、ナショナルドラマスクールでワークショップを行なったことを思い出す。客席数336人の、『ピノッキオ』にちょうど良い劇場だ。しかも奥行きがたっぷりある。照明の設備など説明してもらい、下見を終える。ピアノの搬入経路も確認する。
ホテルに戻り、私は10月2日と3日の日記をやっと書く。(これを書いているのは実は6日!)やらなくてはいけないこと、考えなくてはいけないことが山積みで、日記が2日遅れとなってしまう。このデジタルなご時世に、やっていることがアナログだらけで、あたふたしている。ツアーメンバーはツィッター、座日記、フェイスブック等、リアルタイムでどんどん報告してくれているようだ。
さて、4時半に再びホテルを出発し劇場へ。夜の部は7時開演。お客は何人来るか、ふたを開けてみないとわからない。情宣だけでどれだけ入るか、ひとつの賭けだということだった。結果はなんと満席!親子連れがたくさん。学生やいわゆる大人のお客もたくさん来てくれた。
開演するとすばらしい反応である。ヒンディー語のセリフには温かい大拍手。演出の工夫をすべて理解してくれて、ひとりの役者が役をどんどん変えていくところを、目をこらして見てくれている。お化けのところも受けたし、くじらの幕のところでも「オオ!」という声とともに拍手。ピノッキオとジェペットおじいさんの再会でも拍手。ろうそくを持ったジェペットがくじらの黒布の間から現れるとため息が聞こえ、「やっと会えたんだね」という気持ちが会場いっぱいに広がる。そういう瞬間に立ち会うと、こちらも心が震えてしまう。
そうそう、にわとりどろぼうの場面の後、ピノッキオがさすらって歩き続けるところで、コウモリ(多分)が舞台に2回ほど登場した。ピューッと飛んで来て一度袖に引っ込み、またピューッと舞台に出てきて旋回して退場していった。引き際の鮮やかなコウモリくんだった。
終わったらスタンディングオーベーションとなった。観客は通路にもあふれ出て、熱烈に拍手してくれる。作曲者は舞台に出ていくのに、人をかきわけなければ進めない状態となった。こんな思いがけないことも、とてもうれしい。




ロビーでお客様をお見送り。とても良かった、とたくさんの人が声をかけてくれた。興奮さめやらないまま、さてさてバラシのお時間である。



次の公演地コルカタへ行くために、また飛行機に乗らなくてはいけないので、重量を気にしながらの完全なパッキング。バラシ、積み込みが終わったのは10時半だった。
ホテルに戻り、普通だったらここから初日祝いに出かけるところなのだが、11時すぎてしまいお酒の飲める店もあまりないということで、あきらめる。ホテルの部屋で、成田で買ったワインの最後の一本で乾杯。

0 件のコメント: