10月13日(土)
デリーでの追加公演。劇場はナショナル・スクール・オブ・ドラマの劇場。朝8時半にホテルを出発する。学校の敷地内に劇場がある。劇場の前に中庭があって、学生たちが何かしている。何かヨガのようなことをしている人もいたり、なんだかよくわからないのだが、白い布を身体にぐるぐる巻き付けている人もいた。劇場のキャパは336人。小劇場ながら舞台には奥行きがあって、ピノッキオを上演するにはうってつけの劇場と言える。
9時から仕込み開始。お昼前にはほぼ完了。今日はヒンディー語と英語と日本語だけ(!)だから、みんな余裕がある。とは言え1時半からことばと動きのチェックをしながら、飛ばすところもあるが、ざっと当たっていく。2001年の時にもお世話になったシャリニさんにヒンディー語のチェックをしてもらう。もうほとんど直されるところもなく、OKがたくさん出る。4時より前に終わり、舞台や劇場の前で、基金のスタッフの方たちとも一緒に記念撮影をする。
6時開場。開場時間より前から人が集まってきている。今回はデリーでの追加公演ということだから、10月4日の公演を見た人から口コミで広がって、たくさんの人が来てくれることが期待されていた。でも期待しすぎて、がっかりするといけない、等々気をもんでいた。それが、たいへんな勢いで人が入場してくる。どんどん席が埋まっていく。とうとう椅子席に座りきれず、立ち見となった。通路に座っている人もいる。観客層は前回と少し違って、大学生くらいの人がたいへん多い気がした。ナショナル・スクール・オブ・ドラマの学生も大勢いるようだ。
6時半開演。今日は出演者の体調もとても良い。インドでの約2週間のうち、やはり中盤は体調をくずした人もいたが、後半に向かって盛り返してきた。開幕の太鼓のパレードは良い感じで進んだ。そこまで「Opera Pinocchio」という字幕タイトルで、太鼓パレードが引っ込んだら、「Birth of Pinocchio」という場のタイトルに変わることになっている。だが、「Opera Pinocchio」のままだ。大工の棟梁役の岡原が登場する。「おれは大工の棟梁、大棟梁だ」と歌う。そこで字幕は「I am a master of carpenter」と出なくてはいけないのだが、出ない。字幕のパソコンかプロジェクターに不具合が出たのか?最後まで字幕が出なかったら……?と思っていたら、途中から動き出し、字幕5ページ目から追いついた。後で舞台監督の森下さんに聞いたら、パソコンがフリーズしてしまったのだそうだ。これまでは順調だったのに、最終日というのは思いがけないことが起こるものである。
それからは、快調に進み、ヒンディー語もよく伝わるし、受けるし、何よりも物語の行方をしっかり見てもらっていることがわかる。役柄のチェンジも理解してもらえて、喜んでくれている。リズミカルな曲では手拍子が出る。「いいぞ」と感じながら見ていた。
さて、キツネとネコが登場して、大いに受けて、さて彼らがお化けに扮して再登場するところ、ドンゴロスから何か取り出すべきものが見つからない様子。何かセッティングミスがあったのか…?と客席からやきもきする。お化けに扮したキツネとネコがピノッキオを木に吊すのだが、ああ!その首つり縄がないのだった。だが、縄が無くても(無対象でも)ピノッキオが木に吊されていることは完全に理解できた。初めて見た観客は、こういう演出だと思うだろうな。本日のスペシャル演出ということで、良しとしよう。でも、役者諸氏はいろいろ頭の中で考えて、パニクっているだろうな、と察する。最終日というのは、思いがけないことが起こるものである。
さて、それから先も、とても良い内容で進行。いよいよクライマックス。ピノッキオがくじらに飲み込まれるところ。インドでは各地、ここで大拍手が起きた。今日もまたすばらしい拍手。だが、私にははっきり聞こえた。ボキッという音が。一応企業秘密なのだが、クジラの布の仕掛けは釣り竿なのです。(完全にバラしてますね!)その釣り竿が折れたのだ。だが、われらがまりちゃん、折れた部分をしっかと握り、これまた観客には折れたことがわからなかったに違いない。初演に向けての稽古や、初演のアジアツアーの際は、このクジラの竿は何本もボキボキ折れた。その後の国内のツアーではほとんど折れなくなった。竿の扱いが抜群に上手になったのである。だが、今日は折れた。クジラもインドを旅して疲れたのですね。最終日というのは思いがけないことが起こるものである。
そんなこんなで、いろいろあったが、中身はすばらしい公演だった。私はもちろん何回も『ピノッキオ』を見ているが、今日の公演は忘れられないだろう。トラブルを乗り越えたことではなく、出演者と観客の関係がすばらしかった。終わってからのロビーでの交流も今まで以上に熱烈で、いつ果てることもない、という感じだった。インドツアーの最終公演を終えて、成功を実感することができた。
そしてインド最後のバラシとパッキング。明日は国際線に乗る。カルネの手続きもあるから、荷物をきちんと入れるべき場所に入れなくてはならない。節約モードで使ってきた養生テープやガムテープ類を今日は思う存分使って良いよ、と森下さんが言う。
さて、バラシも終わり、今日はインドツアーの打ち上げ。基金の松岡さんのご好意で松岡さんのお宅で打ち上げをさせていただけることになった。しかも食べ物や飲み物の準備もすべてやってくださった。すてきなアパートに奥様の早代さんと息子さんの亨真(こうま)くんが出迎えてくださった。亨真くんは1歳半。変な大人がわらわら訪れてごめんね。初めはちょっと人見知りしていたが、だんだん仲良しになってくれた。松岡さんには何から何までお世話になった。汗にまみれた衣裳の下着の洗濯までお願いした。レストランでの打ち上げより、こういうアットホームな打ち上げが、心からうれしく感じた。
皆ほんとうにくつろいで楽しい時間を過ごし、松岡さんのお宅を後にする。ホテルに戻ってからはあっと言う間に熟睡状態となった。
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