オペラ『おぐりとてるて』稽古場日誌(9月6日):西田玲子

こんにちは、演出助手の西田です。
稽古を毎日前から見ているわたくしの、個人的見どころ。

髙野うるお。

あのね、[この場面]とかではなくてね、[髙野うるお]という役者。
今回の作品は一人一役ではなく何役もこなし、十人で六十人もの人物を登場させる。
うるおさんもいろいろやるけど、大きな役では説経師、三郎、村君の太夫の三役。
その三役、全く違う人物が出てくる。

まずは説経師、説得力のある良い声でピリリと場面を引き締めながら語り場面を進めていく。
うるおさんの説経師は最初から最後まで重要なポイントで登場する。


その間、一幕後半でうるおさんが演じるのは照手の兄、横山家の三男、三郎。
うん?三郎?あちゃらかオペラ『夏の夜の夢~嗚呼、大正浪漫編』でもうるおさんは三郎という役を演じていた。
あの人も人としてどうかと思ったが、こちらもなかなか。三男ということで、家督を継げる可能性が低く、身を守るためどうにか父に気に入られようと常に計略をめぐらす男。

三郎が初めて登場するシーン。父である大石扮する横山の後に続いて出てくるのだが、
さっきまでどっしりと落ち着いて語っていた説経師うるおさんが、このときは歩きはちょこまかと、目線も下でキョロキョロと一目見ただけで卑屈な男に。
ひと言も喋らなくてもその人物が分かる。
続く酒宴の席でもこの人の目線を見ているだけでストーリーが解る。
小栗暗殺シーンでも舞台すみでおどおどする姿は三郎という男が良く見えて感心させられる。
さすがこんにゃく座に関わる全ての演出家から信頼され、一目置かれる歌役者。

休憩後は流れ着いた照手を助ける村君の太夫。
姿勢も歩き方もさっきとは打って変わって、まるでほのぼのとした漫画を見ているよう。
極めつけは村君の太夫の退場シーン。
音楽と身体の使い方、そして声の使い分け。
何度見ても、どこから見ても、「うまいなあ。」とつぶやいてしまう。

一つの作品の中で次々と全く違う役を演じていく髙野うるお。
その変わり方の鮮やかさ、是非見ていただきたい。






ぜひお楽しみに。

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